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風邪に抗生物質は昔の話

風邪の治療、抗菌薬のかんがえかた

風邪(かぜ)って一体、なんですか?

「かぜ」とは、くしゃみ、鼻水、咳・痰、のどの痛みや発熱など、鼻やのどの急性の炎症を一般に呼ぶ言葉です。

そして、この「かぜ」の原因は、約9割がウイルスによる感染ということがわかっています。また、原因となるウイルスは何十種類もあります(例えばライノウイルス、新旧コロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、etc…)。

そして、かぜ症状では、「○○ウイルスだけに効く専用の抗ウイルス薬」というものがほぼ存在しません(インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス薬が数種類ある程度です)。また、原因のウイルスを検査、診断する方法はあっても時間やお金がかかるものも多く、わかる頃にはたいてい治ってしまっています。つまり、検査しても行うことはさほどかわりません(ですので、しっかりした隔離が必要かどうかということを目的として、新型コロナやインフルエンザはよく検査が行われますが、それ以外のウイルスを目的とした検査をあまり行わないのは、「検査したとて行うことがあまり大きく変わらない」からです)。

ですので、第一に体を休め、熱冷まし、痰切り・咳どめのお薬で症状を和らげる対症療法を行い、もともと体に備わった免疫が働いて治ってくれるまで、体調の回復を待つ…ということがかぜ治療では中心となります。

つまり、風邪の場合、熱冷ましや痰切り・咳止めのお薬を服用し、体内の免疫ががんばってくれるように、症状が落ち着くまでおとなしく休むというのが基本的な治療となります。

カゼには抗生物質??

細菌が原因の炎症には「抗菌薬(=抗生物質)」が効果を発揮してくれます。ですが、風邪の原因は主にウイルスですので、細菌が暴れているような所見がない限り、抗菌薬の使用は必要ないと考えられています。また細菌が暴れ出すのは、ウイルスによってはなやのどの粘膜が痛めつけられた後で、症状が出始めて最低でも2~3日ほど時間が経ってからと考えられます。

つまり、風邪を引いてすぐの段階では、かぜ症状の大半はウイルスが原因であることが多く、その段階で抗菌薬を使用しても「いない敵を攻撃している」こととなり、症状の改善につながらないと考えられています。つまり、風邪の症状が出始めた早い段階で抗菌薬を使用することは適切ではありません。炎症を起こすのはウイルスが先、細菌が後という順番なので、最初から抗菌薬を内服しても、効果が起こらないのです。

ですので、かぜ症状が出て早期の段階では、基本的には抗菌薬を使用せずに、「対症療法」=熱冷ましや咳止め、痰切りなどの薬剤を中心とした治療を行うことが適切と考えられています。つまり、「今朝からの熱が心配で抗生物質を飲む」ということは色々と不具合があります。ですので、基本的には「カゼに抗生物質」すでに行われない、昭和の治療です。そういった考え方が今はだいぶ広まって来ていますが、やはりそれでもなおGoogleマップや各種口コミサイトには「カゼに抗生物質を出してもらえなくて不信感を持ちました」といったようなカキコミを見ることがあり、そういうときには残念な気持ちになってしまいます。

じゃあ、抗菌薬はどんなときに飲むのがいいの?

耳鼻科の範囲では、特に「うみ(膿)」が見られるような場合の、中耳炎や鼻炎・副鼻腔炎(ちくのう)、扁桃炎の場合です。うみは、細菌が暴れている証拠ですので、その場合は、抗菌薬の使用が適切と考えられます。鼓膜の奥に白いうみが溜まっている、黄色い鼻水が出る、扁桃腺の表面に白くうみがついている…といったような時に服用いただくことが適切と考えます。

ウイルスが主体となって暴れている段階で抗菌薬を服用しても、効果が乏しいだけでなく、副作用で困った・耐性菌(裏に説明)を育てるだけだった…となることもありえます。費用の負担という側面もあり、適切な投与のタイミングの見極めが重要となります。また、抗菌薬は炎症の原因となる菌を目標に使用しますが、ときに腸内細菌など体に必要な菌も必要以上にやっつけてしまう=ひどい下痢などを起こすこともあり、総合的に判断して使用します。また、抗菌薬には色々と種類があり、系統によって特徴があります。病原体に対して使い分ける必要があり、このため、ドラッグストアで一般の方向けに販売されることはなく、処方に医師の判断が必要とされる薬剤となっています。耳鼻咽喉科の領域であれば、オーソドックスなペニシリン系や、マクロライド系の使用が経験的にも統計的にも有効なことが多いとされています。

ちなみに、早いうちから抗菌薬を飲んでおけば風邪の症状が悪化しないというようなことは、まずありません。

耐性菌ってなんですか??

⇒一言で言えば、「抗菌薬が効かない細菌」です。

細菌が抗菌薬に対して抵抗力があることを、「耐性がある」といいます。効果が見られないのに抗菌薬を長い間使っていると、薬が効かない細菌=耐性菌を生み出してしまうことが知られています。

細菌はさまざまな方法で抗菌薬を分解する力をつけることがわかっています。そして、抗菌薬を発症早期のかぜに使用したり、症状がないのに「心配だから」と長期間飲み続けたり、効いていなくても使用するなどの不適切な使用で、耐性菌が生まれやすいということがわかっています。ですので、こういったお薬の使用法は厳に慎まないとなりません。

日本はこの耐性菌が非常に多く、耐性菌が増え続けると、将来、今までなら効果があった抗菌薬が効かなくなることが心配されています。遠くない将来、病気にかかったとき、効果的な薬がなくなってしまっていて、病気を治せない…という恐ろしいことになってしまいかねません。

(詳しくは厚生労働省HPの「薬剤耐性対策について」をご参照ください)

以前からひんぱんに同じような扁桃炎を繰り返したり、もともとの病気で明らかに免疫機能が落ちていたり、免疫抑制剤を長い間服用している方に対しては予防的に抗生剤を使用することもあります。

しかし正常の成長過程にあるお子様、普通に暮らしている大人の場合はまずそういったことがありませんので、予防的な抗菌薬の安易な使用は慎重に考えるべきとされています。

小さなお子様のかぜは治りにくい…??

まず、こどもが風邪をひきやすいという大きな原因は

  • 大人にくらべて免疫が未完成
  • 手洗いうがいやマスクなどの感染予防行動ができない
  • 集団生活をしているので、感染症をうつしあいやすい…ということが挙げられます。

かぜの大半はまず、鼻水の症状をともないます。また、特に小さなお子様では、自分だけで十分に鼻をかむことができません。

たまった鼻水を放置すると…まず鼻水がのどに流れ落ちてのどにへばりつき、そのせいでのどが刺激され咳が続きます。さらに悪化してくると引き続き

鼻をすする⇒耳へのトンネルを経由し炎症が広がる⇒熱が出て痛い急性中耳炎⇒炎症が収まっても鼓膜の奥に水がたまったままの滲出性中耳炎(鼓膜がうまく震えてくれない、聞こえに悪影響)を起こすことも

鼻の奥自体で炎症悪化⇒どろどろ鼻水が続き痰が絡む⇒咳が長引く

鼻づまり⇒口呼吸が続く⇒のどの炎症悪化⇒熱を出し痛い扁桃炎に

口呼吸⇒しっかり睡眠が取れない⇒なかなか治らない

…こうして悪循環になり長期化すると、お子様だけでなく、ご家族の方にも通院の時間的な負担がかかりかねません。そうなる前に、症状の出始めからこまめにお鼻の掃除を行うことで早期に改善させて、悪化を予防する効果が期待できます。つまり、小さなお子様の場合、鼻水の多いかぜの場合には、鼻水の吸引処置がしっかりできる耳鼻科をはやい段階から受診していただくことをお勧め致します。

お子さまの風邪は薬がききにくい??

また、実は、鼻水を止めるお薬も、アレルギー性鼻炎用のものくらいしかなく、効くとしてもアレルギーをお持ちのお子様にとっては効くかもしれませんが、風邪由来の鼻水をピタッと止めるお薬は基本的にはありません。咳止め薬も、鼻をすすってのどへ鼻水がおちてくる・へばりついているタイプの咳にはほぼ効果はなく、ましてや「気管支を広げるテープ・シール」も、咳を止める薬という誤解が広がっていますが、そういうものではありません。また当然、風邪の初期には咳を止める効果は乏しいということが知られています。もちろん1歳をすぎてからになりますが、はちみつが咳や痰を抑えるには効果があると知られており、こちらは有効かもしれません。(1歳を過ぎるまではちみつを摂取することはボツリヌス菌食中毒の危険性があり、絶対に避けてください)

ある程度ご自分でも鼻をかめるようになるまでは、鼻をすすってばかりで、余計風邪が治らず長引く・なかなか改善しないというようなことはよく知られています。ですので、当院では、風邪のお子様には、鼻処置、鼻をかむ練習をして頂くようによくお願いすることが多いです。

鼻吸引器の購入をおすすめします!

こういった考え方から、お家で「鼻の吸引器」をご購入頂くのがよいと考えています。お風呂上がりや寝る前にこまめに行ってあげることもまた大切な治療です。そして、生まれたてくらいなら吸引するタイプでもよいかもしれませんが、こちらはあまりうまくいかず、またやってあげる大人にうつるのではないかという話もあります。ですので、できればしっかりした電動タイプをお勧めしています。

お子様に慣れてもらうまではなかなか難しいかもしれませんが、まず、お子様ご本人に痛いこと、怖いことではないということを理解してもらうために普段からしてもらう、さらには、大人が複数人で行う…抑える人と機械を操作する人の二人以上で行うことが必要と思います。

鼻そうじのコツ

鼻は手前から奥に下り坂のように軽く角度がついており、そのため鼻の前方・鼻の穴周囲を吸引器の先端をぐっと持ち上げるようにあてがうと、鼻の入り口と後方とが一直線になり、よく吸い上げることができます。また角度を変えてよく吸える場所を探すように色々と試してみることが重要です。そして、お子様の皮膚は柔らかく、鼻の横のほっぺたのあたりを軽く指で外側へ引っ張ると鼻の穴が広くなり、さらに奥の鼻水が出やすくなることもあります。

もちろん、うまくいかない場合は当院で処置させていただきますので、ご遠慮なくおいでください。

こういうときは、耳鼻科ではなく小児科へ

ちなみに…耳、鼻、のどの症状以外に

  • はきくだしなどのお腹の症状が強い
  • ミルクが飲めない、おかゆもほしがらないなど食欲がない
  • 活気がない、ぐったりしている
  • 熱冷ましが切れるとまた高熱になるサイクルを繰り返す
  • ヒューヒューと高い音の咳をしている

⇒こういうときは、耳鼻科ではなく、小児科へまず受診をお願いします!

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