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良性発作性頭位めまい症

耳のめまいの代表でもあまり知られていない病気「良性発作性頭位めまい症」

めまいをよく起こす人で…

朝に目覚めて体を起こす、夜に寝床へ入って体を横たえる、顔を洗ってパッと顔を鏡で見ようとする、寝返りをうつ、深くお辞儀をする、高いところのものを取る、靴紐を結びふと顔を上げる、歯医者さんの診察台で横たわる、美容院でシャンプーの姿勢をとる、目薬をさそうとする…、など、体の軸が大きく傾く時に限って起きるようなめまいの感覚はありませんか?

知名度は低いけどこんなタイプのめまいの病気があります!

  • めまいがよく起きるような、決まった方向がある
  • 頭の角度を大きく変える動きがきっかけとなることが多い
  • 動いてすぐではなく、動いてから少し間をおいてから起きることが多い
  • めまいの長さは、数秒~長くても数十秒程度 
  • 繰り返して起きるけれど、繰り返すうちに次第に落ち着いていく
  • ひどいときには「ぐるぐる」と回転する
  • 少し落ち着くと「ふわふわ」と浮動感が続く
  • 二、三回起きると、その後、気がついたときにはあまりめまいを感じなくなっている
  • 聴力は変わらない(典型的なメニエール病であればどちらか一方の聴力が悪くなります)
  • 聞こえにくくなるようなことは起きない

…といった特徴が多く揃えば「良性発作性頭位めまい症」が考えられます。

耳が原因のめまいのうち、半分程度を占めると言われますが、全然有名ではありません。

発作時にドカンとひどいめまいが、頭の位置を動かした時に起きるけれど、比較的早い目に治ってしまう…そういった病気のイメージが埋め込まれた名前となっています。

とにかくこけて頭を打ったりしないことが大切ですので、このめまいが続いている時には、すぐに動こうとしないような注意が必要です。そして、診断のため基本的には医師の診察をお受け頂き、眼振といってめまいの時に起きる目の病的な動きを確認してもらうという必要がありますが、このページに記載されているような特徴に合致していれば、診察前にリハビリをお試し頂いてもよいのではと思います。

耳とは…もともときこえと傾きの情報を拾う器官

鼓膜の奥の内耳という場所に、「半規管」という、傾きの情報を拾う器官があります。リンパ液が満たされた太いパイプ状の輪っかのような構造で、このパイプの中でリンパ液の液体が動くことで、回転・重力・体の方向を感じ取るセンサー(耳石器)が存在しています。

(※この半規管という構造が三つあり「三半規管」と言われます) 

図では、カタツムリの部分ではなく、外に飛び出たような輪っかの部分です。

正常では

⇒頭が傾く
⇒半規管のパイプ(図の輪っか)の中のリンパ液が動く
⇒パイプ内部のセンサーが刺激される
⇒動きに応じ電気信号が発生
⇒送られてきた信号を元に脳が傾きと対応を計算
⇒足はこれだけ踏ん張れ、目はこっちを向け、などと命令する…

といった働きが連鎖しておきます。

しかし、この三半規管内部にゴミ(耳石)が貯まることがあり、このゴミが動くとめまいが起きる病気があります。これが「良性発作性頭位めまい症」です。

つまり…

⇒リンパ液と一緒に、パイプの中でこのゴミがゴロゴロと動く
⇒ゴミのせいでリンパ液も余計にたくさん動く
⇒ゴミが激しく動くために、三半規管内部のセンサーが余計に刺激される
⇒傾いた時の信号だけでなく、ゴミ由来の余計な信号がたくさん発生
⇒足の裏や目からの情報はそんなに傾いていないはずなのに、耳からは「めちゃくちゃ傾いています!」といった内容の情報が届いてしまう
⇒脳の計算が大混乱する
⇒体への指令も大混乱する
⇒ひどい場合はゴミ由来の余計で強い信号が、脳の嘔吐の働きを担う部分まで過剰に刺激
⇒強い吐き気が発生する

…つまり、少ししか傾いていないはずなのに、三半規管の内部のゴミがゴロゴロ動いて、そのゴミのせいでまるで大きく傾いたかのような間違った情報が発生し、それが脳を混乱させます。そして脳が混乱した結果、めまいと、時に吐き気が生じます。

耳からの過剰な傾きの情報を打ち消すために目が動き、またその目の動きで景色がぐるぐる動いているように感じることがめまいそのものです。

また、このゴミが動くたびに、そして動いている間はめまいが生じますが、三半規管の中でゴミが動く時間は数秒~数十秒なので、大半の場合、じっとしていさえすれば、それくらいの時間が経過するとめまいも落ち着きます。(※ゴミが直接センサーにへばりついて強く信号を出し続け、めまいが続く難治性のタイプもあります。)

耳石(三半規管のゴミ)が原因のめまいの特徴

①運動不足の人に多い

…運動と言っても、筋トレやマラソン・ウォーキングのような運動ではなく、傾きの運動です。普段から体の軸が大きく動くことのない、傾きの刺激が少ない生活であれば、このゴミがたまりやすくなります。デスクワークや、手元で細かい作業を長時間行うお仕事の方に多い傾向があります(もちろん、傾向があるというだけで、必ずしもそうということではありません。一説には加齢の影響もあるとされています。)。

②動きとめまいのあいだに一瞬のずれがある

…このゴミは、「粘っこい砂」のような性質と考えられています。その粘り気のために、三半規管の中では、ゴミは、体が傾いてからすぐではなくゆっくり動き出すため、めまいを感じ始めるまで数秒程度の時間の間隔があります。

例)朝、目をさまし、トイレに行こうとして起き上がって、数歩歩きだしたくらいのタイミングでぐるぐるとめまいが起きはじめる…といったような時間差

③繰り返すうちに改善する

…大きなゴミの塊が動いている最中は、それだけゴミ由来の過剰な刺激が強く生じるため、グルグルと激しいめまいを感じることになります。しかし、ゴミの大きな塊は、三半規管の内側の壁にぶつかると、つぶれて小さなかけらへと分かれていきます。そうすると、ゴミ由来の間違った信号は減っていき、激しいめまいは減ります。そのため多くの場合、回転性(ぐるぐる)から浮動性(ふわふわ)へと、めまいの感覚は次第に落ち着いていきます。3日もすれば弱まってくるようなことが多く、逆に頭を動かさなくともずっと強いめまいが連続して続いているといったようなタイプのめまいはこの病気ではない可能性が高いです。たびたび起きるため、「断続的」といった表現が適切ではないでしょうか。

めまいが起きるように頭を動かすうちに、ゴミの塊が割れて、大きな塊が減って小さなかけらになってくると、三半規管内部のセンサーに対しての影響も減り、めまい感が弱まってくる=治ってくる、ということが知られています。これらのことから、治療は、ご自身でめまいが起きるような行動をわざと取っていただくことが大変重要となります。また、ゴミの塊が割れて勝手に小さなかけらに潰れていってくれれば何もせずともすぐに治ることもありえます(実際、ひどい回転性めまいを訴えて受診された方でも、全然目の病的な動きが出ていないことも多々あります)。

この三半規管の中のゴミ(耳石)は粘っこい砂のような性質のため、辛いからと言ってじっと寝てばかりいるとゴミ同士でお互い結びついて大きな塊となります。大きな塊が動くとまた激しい刺激、すなわち強いめまい発作を起こします。

こういったことから、自分で頭を動かすことで、大きな塊ができる前に小さなかけらにつぶして割っていくことがめまい発作の予防、つまり治療になります!

早く治すには薬よりもリハビリを!頑張って頭を動かしましょう

まずは初期のめまいがひどいときはこけない、頭を打たないために安静第一で、めまい止めや吐き気止めのお薬により症状の改善を図ります。

ただ、お薬はこのゴミを溶かしたり掃除したりしてくれるわけではなく、神経の興奮を抑える役割なので、この三半規管内部のゴミが原因のめまいの場合は、薬だけではなかなか治らないことが知られています。

めまいがある程度落ち着いてきた時点で、三半規管にゴミがたまらないようにする、ゴミがあっても強い発作を起こす前に散らしてしまう、などということを考えると、しっかり体の軸ごと動かすようなリハビリテーションを行う必要があります。

めまいを起こすたび、原因のゴミが小さくなってめまいが弱くなる、改善していくというような性質から、苦しくてもめまいを自分でわざわざ起こしていくことによって治していく病気ということが言えます。

特に、反対に「めまいが怖い」といって寝てばかりいると、治りません。

毎日三度めまい止めのお薬を飲んでいても、のどが乾くだけでめまいそのものは治らないという感覚を訴えられることもあります。逆に内科など他院で処方され、耳鼻科受診を指示されたような方が「あの薬は劇的に効果がありました!」とお話されるようなことがありますが、それはお薬があんまり関与しておらず、おそらく飲んでなくても自然に治ったのではないかなと思われることも多々あります。

これだけは気をつけて!

めまいが時間経過とともに悪化する、手すりをつかんでいるのに歩けない、ひどい頭痛がある、手足に力が入らない、言葉が思い出せない、うまく喋れないなどの症状も同時に起きた場合は脳の緊急事態(脳出血、脳梗塞)のことがあり、その時は救急車の要請をお願いします。さらに、もともと高血圧や、糖尿病、コレステロールが高い方、さらに喫煙歴が長い方などは特に要注意です。

めまいのリハビリ

「良性発作性頭位めまい症」は頭を動かすと起きるめまいが特徴ですが、自分で治せる可能性が高く、自分からめまいが起きるような運動をすることによって効果が期待できます。ただ、これまでにも書いてきましたように、自分でめまいが起きるような運動をあえて自分から行う必要があります。つまり、リハビリ・運動療法で強いめまいが起きる可能性も高く、もしも、めまいを起こしてこけたとしても、けがをしない・頭を打たない準備が必要です。

周囲のかたいものを片付け、広い場所を確保しましょう。

柔らかい床:畳・絨毯のお部屋か、ベッド・お布団の上で行いましょう

特にお年を召した方、体が固い方は、ご家族さんとご一緒に

もし、めまいが起きればあわてず、落ち着いて…収まってくるのを待ってから、体を起こすようにしましょう。

体の軸が大きく傾く体操ならなんでもOK!

「三半規管にゴミがたまらないように動かす」「三半規管の中にゴミがあるなら散らす」「傾きの感覚を鍛える」ことが重要⇒「わざとめまいが起こす」くらいに、自分で角度を大きくつけて動かす必要があります。

首だけではなく、腰や骨盤からゆっくり大きく深い角度をつけて大げさに曲げていくように動きましょう。前後、左右、回転の運動を何度繰り返して頂いても構いません。ご自身でうまく動けるようになるまで繰り返しましょう。

極端な言い方ですが、自分でめまい発作を起こして治していく病気です。めまいが起きたら怖いからと言って寝転んでばかりいてはいつまでたっても治りません。

寝返り

おふとんの上で寝転って、左右へ寝返りを繰り返すだけです。

座ったままでおじぎ

座ったままでおじぎを…大きく角度をつけて繰り返すだけ

前に倒れこんだ時はおへそを覗き込むように、後ろへは首を大きくのけぞらせるように

振れ幅、角度ともに大きくゆっくり繰り返します。同時に左右へ動く運動もしてみましょう。

座ったままで、頭の頂点で天井に大きく円を描く

なれないうちは首だけでもよいですが、おへそを中心にして大げさに動いてみましょう  

歌舞伎の役者さんのように「見栄を切る」ような動きでも結構です。

座ったままでのラジオ体操

曲に合わせる必要はありません。わざとゆっくり、大きく、大げさに、深い角度をつけて動きましょう

座ったままでNHKの体操

テレビで時々やっているような体操ですが、椅子かもしくは床に座った状態で、ゆっくり再生してそれを真似してみましょう。

柔道の受け身

後ろに倒れては起きて、倒れては起きて、を繰り返します。

可能であれば角度をつけて繰り返しましょう

(正面を見ながら右45°の後ろに寝転んで起きる、また左も同様)。

固視運動:一点を見つめながら、首を縦や横に振る

カレンダーや時計など壁の一点に目標を決めます。

その目標を見つめたまま、首を上下・左右に振る方法です。

視線が目標から外れるとやり直しです。慣れてきたら少し速度をつけます。スムーズな動きができてくればだんだんと改善が期待できるとされています。

バランスボール

座って前後左右に体をゆらす運動から始めて、バランス感覚を鍛えましょう。

ストレッチや筋トレにも役立ちます。YouTubeなども参考にしてやってみましょう。

ワンダーコア

数年前、KBS京都の深夜などCMをよく見かけた記憶がありますが、腹筋を鍛える時にバネの力で補助してくれる機械です。つまりは、腹筋が弱くて、寝て起きてといった動きがあまりしっかりできない方にもよいのではないかと思います…回し者ではありませんが、理屈としてはしっかり仰向けに寝転んでぐっと起きるといった動きがバネの補助のおかげで劇的にやりやすくなるということで、三半規管のリハビリにはとてもよいと個人的に思っています。

目をつぶって足踏み50回

必ずどなたか横に立ち会って、よろけた時に支えてもらう方とお願いします。どこかフローリングの板の継ぎ目など、目印を決めてもらい、眼の前の景色をしっかり記憶して、目をつぶります。そしてそのまま足踏みを50回繰り返してください(よろけないように気をつけてください)。次に目を開けた時、最初の目印の位置から1メートル以上前にいたり、左右に45°以上ずれた方向を向いていたりなど、かなりひどくずれていれば三半規管の機能というより、足裏からの傾きを認識するような感覚がだいぶ弱っているという結果になります。そこで、この目をつぶって足踏み50回をリハビリとして続けて頂くことも重要と思います。

※ウォーキングやジョギングはもちろん体によいことですし、もし普段からやっておられるなら続けて頂くことをお勧めいたしますが、ひんぱんに体が傾くわけではないため、あまり耳の中の傾きの感覚を司る場所の刺激にはなってくれず、このタイプのめまいにとっては、効果は少し薄いかもしれません。

その他 注意点

メンタルへの悪影響

「めまいが起きそうで怖くて仕方がない、何もしようと思えない」という場合は、重症の「めまい恐怖症」になっている場合があります。実際、めまいが起きた時は、世界が終わるのではないか、死んでしまうのではないかという強い恐怖を伴うため、そういったことは多々経験いたします。ただ、それが強すぎて、めまい自体が落ち着いてきているのに、また「めまいが起きそうだから」と言って色々なことを諦めてしまう考え方の癖が非常に強い場合は、メンタルの専門家へご紹介するのが適切と考えています。というのは、「めまい恐怖症」になると、「めまいが起きるかもしれない」という恐怖で日常生活が支配されて、生活の中での意思決定に強い障害が起きているのに、めまい自体は起きていないということが起こり得ます。こうなると耳鼻科としてはやることがなくなり、プロの手を借りるべきと考えます。

肩こりについては気にしない!

肩こりがめまいの原因になるのではと気にする方がおられますが、この病気の成り立ちから関係は薄く、わざわざめまいと肩こりとを結びつけて考える必要はありません。むしろ、肩こりが起きてくるような、運動不足の生活スタイルが原因であり、成り立ちは逆です。

つまり、頭を動かすたびにめまいが起きることから、ずっと肩を縮めるようにしてくらしているため、肩がカチカチになって結果肩こりに苦しんでいる方もおられます。そういった方は、より、しっかりした傾きの刺激がある運動やリハビリが必要です。

頭痛もち、ストレスに弱い方も、無理に結びつける必要はありません

気圧の変動やストレス性の頭痛が関係するめまいの方も確かに一部おられますが、この良性発作性頭位めまい症であればストレスも気圧もほぼ関係なく、それらを気にする必要はありません。リハビリを続けることで効果が期待できます。

このめまいは薬よりも体操が効果的なタイプのめまいです。めまい止めのお薬は三半規管の中のゴミを溶かしてくれるわけではないため、飲めばピタリとめまいが止まるとか、毎日頑張って薬を飲めばしっかり治るなんていった他の薬のような効果はなかなか期待できません。そういったことを踏まえ、この「良性発作性頭位めまい症」であった場合、当院ではめまい症状に対して長期に漫然と抗めまい薬を処方はしない方針としております。薬に対する依存症を生み出さないためにも、あしからずご了承ください。

浮遊耳石置換法

エプレイ法、レンパート法などの「浮遊耳石置換法」については、はっきりとした眼振が確認できて患側が確定し、どの半規管の耳石が原因かといったような確定診断ができた場合は行いますが、眼振所見が十分にとれていない場合に安易に行うと悪化することもあり得ますので、個々のケースで慎重に判断させて頂きます。

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