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扁桃摘出術をお考えの方へ

こちらは、院長が昔、勤務医として行っていた説明をまとめたものです。当然入院施設のない当院では扁桃摘出術を行っておりません。ただ、扁桃腺の手術ってどういうものなんだろうとお悩みの方のお役に立てばと思い掲載しております。

また、施設によって方針には差異があるため、実際の説明とは違うところが多々あると思われますので、参考程度にお捉えいただければと存じます。

本当にお考えの場合は、まず受診先の担当の先生、実際に執刀される先生としっかりお話をされて、ご理解、ご納得の上で治療をお受けになって頂くようにお願い申し上げます。

…慣例的に、口を開くとそこに見えている左右のふくらみの部分、口蓋垂の両側にある口蓋扁桃を指して「扁桃腺:へんとうせん」と呼びますが、正式名称は「口蓋扁桃:こうがいへんとう」という組織です。のどが痛い時に明かりをつけて鏡をみると、左右ともに白いうみがついたりしているといったことを確認されたことがある人も多いのではないかなと思います。

基本的には免疫の働きを担う器官と考えられていますが、謎も多い器官です。

※「扁桃腺」の「腺」の字は、他の器官へ影響を与えるようなホルモンを出す分泌器官を指す意味を持ちます。昔はそういった機能があるものと考えられてそう呼ばれていましたが、今はそこまでの機能はないため、腺という字は正式名称から外されています。

扁桃摘出術を行う三つのケース

扁桃摘出術を行うのは主に三つのケースがあります

①急性扁桃炎を繰り返す方 (=慢性扁桃炎、習慣性扁桃炎)

風邪がなかなか治らずに悪化し、その後、扁桃が細菌による炎症のために強く腫れて白い膿が表面にびっしりとつき、38度以上の強い発熱や痛みを伴い、通学・出勤がままならないようになります。飲み込むたびに強いのどの痛みが走り、食事も大変なくらいになるような状態のことを「急性扁桃炎」と言いますが、このため受診が必要となり、学校・職場を数日程度休まざるを得ないようなことが、年に3~4回以上と頻繁に起こすような方が手術の対象となります。(風邪はウイルスによるもので抗生剤は効果を発揮できませんが、その後の、一般的にうみがつくような状態であれば、抗生剤・抗生物質が効果的です)

つまり、炎症を起こす場所そのものを取り去ることによって、頻繁に起きる、強い炎症を予防しようとする目的です(ただし、全くかぜをひかなくなるわけではありません。)。

また扁桃組織は口蓋扁桃(=口を開けた時に見える左右の出っ張りの部分)だけでなく、のどを取り巻く周辺の他の場所にもあり、術後数年経過してからそれらが代償性に(=なくなった場所の代わりにほかの場所の扁桃組織ががんばって)肥大してきたり、(舌の付け根や鼻の一番奥の壁にあり、こちらが膨れてくる)またその膨れた場所がよく炎症を起こしたり…といったようなこともまれながらあります。

免疫をつかさどる器官を取ることになりますが、この手術後に免疫機能が著明に低下することはほとんどないことが知られています。組織表面に存在するIgAが減少するという事実はあるようですが、そのために手術後、日常的にかかることのないバイキンが暴れるとか、弱いバイキンにやられやすくなる…というようなことは明らかにはなっておりません。

②扁桃肥大が原因の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方

扁桃自体がのどの幅に対して相対的に大きく、口腔内を大きく占拠して空気の通り道を邪魔している場合、強いいびきや睡眠時の呼吸停止が起こります。軽度では眠りが浅くてけだるい、というようなことで済みますが、頻回の呼吸停止の場合では「睡眠時無呼吸症候群」と呼ばれるさまざまな不利益をこうむることがあります。

幼少児の場合、睡眠の質の低下から成長ホルモンの分泌低下が起きるため成長・発達に悪影響を及ぼすとされています。そのため大人と比べると治療の介入の必要性が高く、早くみつけて早く治療を行うべきと耳鼻咽喉科では考えられています。

小児の睡眠時無呼吸症候群の場合、放置すると…体格が小さくなる、夜尿症、易怒性(怒りやすい)、日中の集中ができない、胸郭や顎・歯並びの変形を来す(漏斗胸と言われる胸郭のへこみ)、性格や発達へ悪影響を起こす、などの可能性があります。また、鼻閉の改善を目的としてアデノイド切除と同時に行うこともあります。

お子様の閉塞性無呼吸症候群の場合は、扁桃摘出術とアデノイド切除で比較的大きな改善を期待できるということは、耳鼻科の医師にとって以前から長年の経験によってよく知られています。

ただ、成人でも同様のことが起きますが、成長してからの睡眠時無呼吸症候群では、基本的には肥満と顎の骨格が関係していることが圧倒的に多いため、小児と同様にのどの手術単独で改善を図ることははっきり言って困難です。睡眠衛生、鼻の手術療法やCPAP、減量などの組み合わせによる総合的な対応が必要となります。

また、手術をしてみないと、効果のほどはわからないため、その点重々ご理解を必要とします。というのは、成人の場合は閉塞しているポイントが舌根、すなわち口を開けても見えないような少し奥の場所(焼肉で言う「タン元」の場所)であることも多く、そうなると口を開けて見える場所の扁桃をとる手術で改善はしても治療は継続して必要といったことも普通に起こり得ます。

ちなみに、扁桃は、大きいからといって炎症を起こしやすいわけではありませんし、炎症を繰り返しているうちに大きくなってくるというものでもありません。

③病巣感染(IgA腎症、掌蹠膿疱症など)の方

扁桃が原因で全身に影響が及ぶ疾患(病巣感染症)があり、扁桃を摘出することで改善ないしは悪化を防ぐという効果が期待できる疾患があります。

対象となる病気のひとつには「IgA腎症」というものがあります。

腎臓の老廃物をこしとる「糸球体:しきゅうたい」という組織に、IgAを含んだ異常な免疫複合体=できそこないのタンパク質が沈着して、血尿や蛋白尿などを来すという病気です。この疾患は腎移植を行っても再発が起きることから、根本的な原因は腎臓にはないのではないか、と考えられています。そしてこの糸球体に沈着を起こす異常な免疫複合体が産生されている場所が扁桃であると考えられており、治療法のひとつとして、扁桃を切除することでIgA腎症の改善を図り、透析になる可能性を少しでも下げる・もし透析になるとしても、ご自身の腎臓が働いてくれる時間を少しでも伸ばす…という目的に行います。ちなみに、IgA腎症の治療については、色々と見解があるため、必ずしもこの治療が主流というわけではありません。ですので、この治療も、基本的には腎臓内科の先生のご指示、ご紹介で耳鼻科への紹介で話が始まるケースが多いように思います。

手術自体が強く扁桃を刺激する操作となり、術直後は尿所見や採血で腎臓機能の悪化が見られることがありますが、大半の場合は一時的です。術後の状態が落ち着いたら、またもともとの腎臓内科の先生に腎臓のデータを見て頂き、手術単独では終了せず、その後引き続いてステロイドパルス療法を組み合わせてお受け頂くことになるケースも多いのではないでしょうか。

同様に、掌蹠膿疱症においても、手術によって手のひら、足の裏のかゆみ、痛み、皮膚の剥がれるような症状の改善を目指します。教科書では、胸肋関節骨化症(SAPHO症候群)に対しても行われるというような記載をみかけたりします。教科書によっては重症のアトピー性皮膚炎にも効果が期待できるという記載があったりします。

いずれの疾患にしても、効果の程は施設によって様々であり、また、どれくらい改善するかはやってみないとわかりません。

具体的な方法

手術は全身麻酔で行います。操作自体は約一時間程度となりますが、実際はその前に麻酔科の先生による麻酔をかける・さます、という手順が各30分ぐらいずつ加わります。

まず口を大きく開けて固定するために「開口器」という装置をセットします。

このため、術後、口の端が少し切れたり荒れたりする(…冬、乾燥した環境で大きく口をあけたりしたときにピリッと口の端が裂けるような)「口角炎」を起こすことや、口唇にあとかたが着く場合もありますが、軟膏を塗布することなどで日数が経過すれば改善が期待できます。また開口器が舌全体をを強く押さえて体重がかかるため、術後数日、しびれたような感覚になり、またしびれたままでものをたべると味がわからないという状態になることもありますが、大体数日で回復するのが一般的です。

また、ごく稀ながら、隠れた齲歯(虫歯)があると、歯の脱落・欠損が起きる場合があります。

開口器をかけたり外したりする時、また麻酔から覚ます時、麻酔のチューブを抜く操作にともない歯が抜けて気管に落ち込むと大変危険ですので、明らかに動揺している歯があれば、止むを得ず術中にその場の判断で抜歯する場合もあり得ます。

 

扁桃自体は前の膜(前口蓋弓)と後ろの膜(後口蓋弓)にうもれた「扁桃窩:へんとうか」とか「扁桃床:へんとうしょう」といわれる場所にひっついています。扁桃をここから周辺の組織を削いではがしていくので、切るというよりは、引っ張りながら掘り出すような操作を行います。

まずメスで前の膜の外側に切開を入れ、綿球で表面の血を拭きながら圧迫して、扁桃自体の一番表面の層を確認します。綿球で扁桃をぐりぐりと圧迫すると、周囲との位置関係があきらかになっていきます。扁桃は線維と呼ばれる細いひものような組織で下の組織と固く結びついており、こちらをはがしていきます(これを剥離操作と呼びます)。また、この線維の束の中に血管も含まれるため、熱を加える機器を用いて血管を焼きながら、止血と剥離操作を同時に進めていきます。

この操作では、以前に強い炎症を繰り返していた方ほど癒着(=組織がしなやかさを失って硬くなって強く結合している状態、ひきつれ)を起こしているため、時間を必要としますし、また術後に痛みが強く出ることが多いようです。

癒着が強い方の場合、扁桃と接している組織がへばりついたままで、取る方の組織に強くひっついて取れてきてしまうことがあり、この場合結果的に傷口が深くなるケースがあります。つまり、もともと繰り返し炎症を起こして来た方の場合は傷口が深くなりがちなので術者は気をつけないといけません。また、舌の後方で表面へのびた味覚の神経(舌咽神経の舌枝、舌の後方1/3の味覚を感じる)がのびてきている場合、こちらを損傷する可能性が低いながらもあるため、丁寧な操作を行います。(つまり、余談ですが、やはり何度も炎症を繰り返してこられた方ほど手術が難しく、また治りも遅い傾向にあります)

血管が露出している場合は糸で縫合して止血を図ることもあります。また、最近では、施設によって止血操作と剥離操作を同時に行うことができるデバイスを利用したりしています。

扁桃を取り出したら、止血操作を確実に行い、何度か綿球で創部の表面をこするなどして、出血がないことを確認してから手術を終了します。

術後

創部の感染予防のために抗菌薬を点滴や内服で数日間投与します。

残念ながらごはんの通り道に大きな口内炎のような傷ができますので、何をどうしても飲み込む時は痛みます。鎮痛剤を随時使用して頂きますが、使用してもしばらくは痛みはゼロにはなりません。また、傷口にさわらぬよう水分の多い柔らかな食事をとって頂きます。またジュース、ゼリー、プリンも可能ですが、柑橘類の配合がなく、刺激が少ないものに限ります。アイスクリームもアーモンドやナッツ類、コーンカップの硬い部分のないものであれば食べて頂いてかまいません。(このあたりも、必ず主治医の先生のご指示を仰いでください)また、医師によっては、もともと胃を荒らすようなことのないような方の場合であれば、食前に鎮痛剤を服用し、効果がでてきてから食事していただくような方法をとったりすることもあるかもしれません。

また必ず口蓋垂(のどちんこ)が腫れます。本来、扁桃へ行くはずだった血液が一時的に口蓋垂へ集まるため、水ぶくれのように腫れます。そうなると、震えにくくなるため一時的にいびきがうるさくなったり、仰向けで寝ると腫れた口蓋垂が鼻との交通を通せんぼしてしまうため、鼻での呼吸が困難になり、突然鼻詰まりになったような感覚になりますが、およそ数日で腫れがひいてくるにつれて落ち着いてきます。

入院期間は術後約一週間程度に設定している病院が多いと思います。創部が落ち着くまでがおおむね約一週間かかるというのがその理由です。手術直後から粘膜の表面に白くて柔らかなかさぶた(白苔:はくたい)がついて、だんだんと分厚くなり、数日して剥落(はくらく:剥がれ落ちること)してきます。白いかさぶたの後ろにピンクの粘膜の色が薄く見えてくると、創部が落ち着いてきたものと判断します。この白いかさぶたが全部落ち切るには、個人差もありますが約2~3週間を必要とします。

このかさぶたがついている間は、硬い食べ物や刺激物、果物のジュースなどは避けて頂いています。また、スナック菓子やビスケットなど、比較的粘り気の強く歯に引っ付きやすいものも避けて頂く必要があります。歯に引っ付きやすいということは、やわらかいかさぶたにもへばりついて、傷が治っていないのにかさぶたにへばりついて落としてしまい、出血の原因となると考えられているからです。

術後出血

他の手術と違い、傷口を縫い合わさないために出血が起きることがあります。程度にもよりますが、あるとすれば手術当日か約5,6日後の、柔らかなかさぶたが多くはがれだす日にちに多いとされています。

創部が落ち着いてきて術後出血の可能性が低くなったということを確認してからの退院が適切と考え、術後出血の可能性のピークを超えたとされる、術後約一週間の入院期間を設定している施設が多いのではないかと思います。

どんな手術であっても、術後出血は1%前後の確率で起こり得ます。しっかりと止血操作を確認しても、術後病棟に帰ってきて、強くせき込むなどのきっかけで起きることがあり、また程度や状況によって対応は様々になります。

大人ならば、少量の出血であれば処置台に座り局所麻酔下の止血処置を行い、一日絶食、再出血がなければまたやわらかい食事から再開するという形の対応も可能な場合が多くあります。しかし流れるような出血や断続的な出血があって貧血の進行が確認された場合は再度手術室での止血術:出血源の確認と確実な止血を行うことが必要と考えます。

また小児の場合は、おとなしく処置台に我慢して座るということは困難ですので、基本的に術後出血が確認された時点で止血術の適応と考えられていることが多いと思われます。手術室での処置を必要とした場合は、どうしても、「もうしばらく入院しておいてください」ということになると思います。

合併症

手術一般の出血、疼痛、感染がありますが随時手技と投薬で対応します。

今まで説明したように、手術の場所の特性から周囲歯牙、口腔粘膜、味覚の部分的/一時的/永続的な損傷、が低い確率ながら起こり得ます。術後出血は上記のとおりです。また、出血中に血がかたまり、その凝血塊が気道に落ち込んだり、気道の浮腫、閉塞が起こると緊急的に気管切開(より肺に近い位置で気管に穴をあけて空気の通り道を確保する手術)を行うことがあり得ますが、きわめて稀です。

安全を期して手術操作を行いますが、残念ながら、医療行為については100%の安全が常に保障されるわけではないということをご理解のほどお願い申し上げます。

術後出血がその主なものではありますが、「合併症」というものは、どんなにきちんとした医者が誠心誠意心をこめて手術を行なったとて一定の割合で必ず起こるものであり、それは「失敗」と呼ばれてよいものではありません。ですので、術後、たまたま強く咳き込んだことがきっかけとなって創部から出血が起きたとしても手術の失敗や未熟な技術で起こったものと判断されるものではありませんし、それに対しての正しい理解は「わたし失敗しないので」みたいな安易なセリフで妨げられてきたのではないかと個人的には考えています。手術室から出てきてすぐに「手術は成功です」というようなシーンが見られたら、それははっきり言って異常です。

禁煙の必要性

喫煙者は当然術後に傷の治りが悪く、また、手術まで禁煙が守れており、さらに最低三ヶ月程度は禁煙ができていないと全身麻酔そのもののリスクが高まるため、待機手術を基本的に行わない施設が昨今増えてきています。喫煙は手術中の唾液、唾、気道分泌物を増加させ、麻酔のリスクを上げるためです。

喫煙が原因で粘膜の微小な炎症が続くためか術後の治癒が遅れる、さらには術後出血のリスクが上がるなどの事実から、禁煙が術前にしっかりと守れない方は手術をお断りされます。術直後の喫煙は当然ながら特にこの手術の場合は、煙で創部をいぶすようなもので、有害です。傷の治りを妨げ、術後出血の可能性を上げます。

また、そもそも、喫煙という行為自体が、扁桃炎を繰り返し発生させるリスクとなっていると考えられています。禁煙ができれば、繰り返す扁桃炎そのものが治る可能性はあるかもしれません。

ご注意

一般的に高度肥満の方はのどそのものが狭く、手技も困難となり、術後のトラブルを来すリスクが高いです。術後出血が起きても舌が分厚くすぐに出血点を確認できないなど、最悪の場合、出血後に血の塊で気道閉塞を起こして緊急気管切開などを必要とするような致命的なトラブルの可能性もあり、お断りを受けることが多いです。

退院後の経過

退院後、約一週間ないしは二週間後に再度受診してもらい、創部の回復具合を確認する目的で受診頂く方針の施設が多いと思います。それまでは比較的柔らかい食事をとって頂き、運動の制限や熱いお湯にゆっくりつかるなどの出血を誘発する行為は避けて頂くようお願いします。つまり、術後、目安として二週間程度経過するまでは、多少の事務仕事なら可能と考えますが、汗を大幅に流して働くような肉体労働は避けて頂く必要があります。

また、退院直後、もしもの場合の術後出血に備えて普通は遠方への旅行は避けて頂くように説明している施設が多いと思います。術後出血は普通、手術をした施設の医師が対応するのがスジとされていることや、遠方へ旅行し、その地の医療資源を圧迫することがあってはならないという背景があります。

術後診察の際に、特に問題なければ一旦終診、ふつうの入浴、運動再開もOKということになります。

 

これらが大体の手術と周術期の説明となると思いますが、くれぐれも、手術をお考えの方は、ご自身が手術を受けられる施設でしっかりと担当の先生よりお話を聞いて頂き、手術についての十分なご理解を深めてから実際の治療へと進んで頂くようにお願い申し上げます。

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