何かよくわからないめまい
病名がはっきりしないめまいで苦労されている方に…
何かよくわからないめまいで苦労されている方は、結構おられます
耳鼻科のめまいの代表の、「良性発作性頭位めまい症」「メニエール病」といった病気で、しかもある程度しっかりと目の病的な動き=眼振が確認できたりしたらよいのですが、はっきりとうまく診断ができることが少ないこともまた、「めまい」という病気の特徴でもあります。また、時に複数のめまいを併発していても、どちらか自覚できずに、めまい恐怖症とでもいうような、めまいが起きていないのにも関わらず、めまいが起きそうだから外出できない、予定を組めない…といったような行動の制限をしている方もおられます。
教科書のように、くっきりはっきりとした診断へ至らないままにめまいに悩んでいる方が多くおられますが、ある程度うまく把握できればもう少し日常生活をうまく送れるのではないかと思います。
頻度から考えると…やっぱり良性発作性頭位めまい症
自然に軽快することも多いため、予定をやりくりして受診して頂けた時には、もうはっきりとした眼振が出ていないだけではなく、すでにめまいの感覚自体も落ち着いているといったことが多いような印象でおります。
また、頭を動かしてわずかな時間間隔(数秒程度)があってからめまいが始まる・めまいの起こりやすい体の向きがある・複数回起きるうちに弱まっていくことが多い、という特徴があれば、この病気の可能性が高いと考えています。
ただ、めまいが起きる首の方向・曲げ方が決まっているのに、起こるたびに楽にならず、眼振が出ない場合、このタイプのめまいではなく、椎骨動脈、つまり脳へ酸素と栄養を送る血管の狭窄で自然に柔道の絞め技と同様のことが起きているといった複雑なめまいの可能性もあり、画像検査を必要とする場合もあります。
昔は通称「脳貧血」などと呼ばれた、起立性調節障害の可能性も
立ち上がった時に、強い立ちくらみやふらつき・めまいが生じるケースがあります。これは小学校の朝礼中に立っていられなくなるような体験をされた方、見た方もおられるかもしれませんが、そのような児童と同じく、体を起こしている状態で脳への血流を十分に保持できずに、脳が酸素不足の状態になってしまうことがあります。
これは「起立性低血圧」「起立性調節障害」などといい、大人でも起きます。赤血球が少ないタイプの貧血とは異なる病態で、「脳貧血」と呼ばれたこともありました。
本来、立ち上がって、脳が高い位置へ動いて持ち上げられると、そのぶん血液も高い位置へ送る必要が生じます。高くて遠いところに水をまこうとすると、ホースをぎゅっと握ったり蛇口をもっと開けたりする必要があるのと同様です。
このとき①血圧を高めるために、血管を周囲の筋肉で圧迫する、②血流を増やすために、脈拍を増やし血管内の血流量を増やす…という反応が必要となりますが、それができずに脳に必要な血液が届かず、酸素が不足した場合、めまい・ふらつき・たちくらみが起こります。
①②の反応は自律神経によります。自律神経のはたらきを改善させる方法のひとつは運動で汗をかくこと…などとも言われています。スポーツにいそしんだり、時には肩までつかってあったまるような入浴したりといったことをこころがけるとよいかもしれません。逆に夏の暑い時期でもずっとクーラーをかけっぱなしで、あまり運動することなくデスクワークばかりの毎日だと、血圧や体温の調整機能は落ちていくと考えられています。
また①がうまくいかないのは、血管周囲を圧迫する筋肉量が足りていないせいかもしれません。血管を十分に圧迫できる筋肉を増やすため、筋トレ(腹筋、スクワット、ふくらはぎを鍛えるつま先立ち)をお勧めします
また、②の改善のためには、相対的な血管内脱水を解決する必要があります。水をたくさん飲んでもらい、血管内を通る液体の量を増やす必要があります。
結局、普段から水をたくさん飲んで、ジョギングなどの有酸素運動や、ストレッチ・スクワットや腹筋などの筋トレで汗をかいてもらい、風呂にしっかりつかる…ということが治療となります。
気象病って?気圧の変化に弱い人はいませんか?
梅雨、台風、秋の長雨、冬の時雨…など、気圧が大きく変化する気候の時に、何となくしんどい・頭が重たい・めまいなど、様々な症状を起こすといった方がみられます。
近年では「気象病」といった呼び方もありますが、ご自身に合った頭痛薬、抗めまい薬、漢方薬を試しながら探していくことが治療の近道となります。
こういった方には「頭痛ーる」と言った、気圧変化予報のスマホアプリ利用をお勧めしています。気圧が大きく変化する場合にアプリが教えてくれますので、もし本当にそういった気圧の強い変化が起きる際にリンクして頭痛や体調変化が現れている方であれば、そういった気圧変化のタイミング前に服薬し、症状を抑えて日常生活に対する影響を最小限に留めることが期待できるのではないでしょうか。
ピカピカ・キラキラと予兆がある片頭痛発作がある方はいませんか?
「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる、頭痛の発作前に視野がチカチカしてくる、点滅するようなピカピカした光が見える方の場合、血管のけいれんで起きる「片頭痛」の可能性があります。
もしこれが内耳の血管近くで起きた場合に、めまいにつながると考えられています。内耳へ行くべき血管でこのようなけいれんが起きると、内耳への酸素供給が不安定になり、バランス感覚の障害が起きます。もしもこのタイプであった場合、片頭痛のお薬で改善できる可能性があります。頭痛もちの方で、いかにも「予兆」がある方の場合、専門の「神経内科」「脳神経内科」「脳神経外科」と標榜されている先生や、「頭痛専門医」資格をお持ちの先生へ受診されてみることをお勧めいたします。
前庭機能低下
パソコン作業、スマホに没頭している時間が長い、デスクワークや長時間座って作業するようなことが多い方であると、純粋にバランス感覚の神経が退化・サボってきてしまいます。この場合は運動してバランス感覚を鍛え直す必要があります。もちろん、「良性発作性頭位めまい症」を発症しやすい環境でもあり、そういった可能性もありますが、一般的にめまいを訴える方には、そうした傾きの刺激の少ない生活様式が下敷きにあることが多く、体の軸を大きく動かすようなリハビリや体操で改善が期待できます。言い換えれば、ご自身でバランス感覚を鍛えれば改善する可能性があります。そうなれということではありませんが、フィギュアスケート選手がくるくると回っている姿を見ると、訓練次第ではあのように何度回転してもきちんと立っていられるところまでたどり着けるのかもしれません。もちろん一般人にそのような能力は必要ありませんしそこまで訓練をしないといけないわけではありませんが、かといって傾きの刺激が少ない状態でずっと過ごしていればやはりバランス感覚・傾きを捉える感覚は弱まっていきます。
傾きを感じる能力・バランスを保つ能力はある程度自分で鍛えて保っていく必要があり、てっとり早い方法としては、おじぎを繰り返す体操や、おふとんの上で寝返りを繰り返す、また、さらにはゆっくりと、大げさに角度をつけたラジオ体操を繰り返す、作業中なるべく立つ・動くといった動作を取り入れる、椅子をバランスボールに変えてみる…などの工夫をされてみてはいかがでしょうか(ご高齢の方はこけて頭を打たない・足を折ったりしないことが大切ですので、ご家族さんにみてもらいながらが適切と思います)。
婦人科的なめまい
更年期、婦人科的なめまいがご心配な方は、並行して専門家の診察をお受け頂くようお勧め致します。というのは、女性ホルモンの多い・少ないといったことが体調の不具合に直接関連する場合もありえますし、また実際に更年期障害があれば、その治療で改善するような場合もあります。また漢方・東洋医学的な治療もある程度経験のある先生のもとでご相談されることをお勧めいたします。
さらに、出ていく血液成分が多い場合、例えば子宮筋腫などを原因とするようなほんものの貧血には、鉄剤の補充などの対症的な治療だけではなく、根本的に手術を検討しなければならない場合もあります。また婦人科領域の腫瘍性病変が原因だったりした場合、放置するとめまいどころではすまない場合もございます。ご希望の場合には紹介状も作成致しますので、受診の際にお伝えください。
PPPD:持続性知覚性姿勢誘発めまい
PPPDは2017年に国際学会で新たに提唱された概念で、近年、慢性めまいの約4割は持続性知覚性姿勢誘発めまい(以下PPPD)であることが分かってきました。つまり、今までよくわかっていないめまいの大半:7割程度がこれではないだろうかと考えられている病気です。
内耳疾患(メニエール病などの耳からくるめまい)や精神疾患(うつ病など)とはまた違うという分類であり、独立した臓器には何も異常は無いにもかかわらず、ただご本人さんにはそうと感じられるような自覚症状だけがある病態、機能性の病気と定義されます。
典型例としては、まず、耳の病気や心のストレスなど、バランス感覚の乱れが先行して、3カ月以上続く浮動感、不安定感、非回転性のめまいを特徴とする疾患です。
こういったバランス感覚の乱れを補うために、眼からの感覚や身体・足裏からの感覚が鋭敏で過剰に反応するようになります。そのために今まで気にならなかった刺激…歩行、エスカレーターに乗る、スーパーの陳列棚を視点を動かして眺める、スマホのスクロール画面を見るといった眼刺激、電車に乗るなどの身体刺激、複雑な模様のカーペットを眺める、街を行き交う人々を眺める…といったようなことが刺激となりめまいが生じます。
新しい疾患概念、つまりそういった病気があるものと知られていなかったため、これといった効果的な治療法はあまりありません。基本的には前庭リハビリテーション(傾きやバランスの感覚を鍛えるために体を動かしていく内容)や、SSRIという、抑うつ状態に対して一般的に使用するようなお薬が適切とされています。また、認知行動療法といって、うまくめまい感、フワフワ感と付き合っていく…めまいはあってもそれでもうまく日常生活をうまくすごせるようなことを目指して、めまいがあったとて出来たことをめまい日記などに記録し、自信をつけていくようなことを行っていって頂く治療法です。
メンタルのめまい
めまいが先か、めまいに対する恐怖心が先かというところではありますが、そしてまた先程挙げましたPPPDと少しかぶるようなところもありますが…
結局色々調べてもよく原因がわからない、でも「またあんな怖いめまいが起きると思ったら何も手につかない、やる気が起こらない」といったような抑うつ状態に陥る場合があります。これは難しい専門用語では「予期不安」といい、色々なことを(まだ起こりもしていない)めまいと不必要なまでに結びつけて、勝手に悪い未来を想像してしまうような考え方のくせのことをいいます。「めまいがおきるんじゃないか」という考えに取り憑かれて、そのせいでいわば取り越し苦労を繰り返し、行動が邪魔され続ける…そういっためまいへの考え方のクセが強いような方は、やはりメンタルの専門家の先生と協働しながら対応する必要性が高いと考えています。
時に、強い回転性のめまいを経験された方は、「もし脳からのめまいだったらどうしよう、死ぬんじゃないか」くらいの恐ろしい体験となります。そして、そのため「また今度同じことが起きたらと思うと心配で」といったように、「めまいが怖い」という感覚が生じますが、それは普通です。ところが、「また今度同じことが起きたらと思うと心配でまともに仕事することができない、家から出ることが出来ない」となると、それは明らかに生活に支障をきたしているので病気として扱うべき対象になると考えます。
本来は「I feel めまい」であったはずでも、めまいへの恐怖が病的に強い方や、長年繰り返しめまいを経験しておられると「I am ザ・めまい」みたいになっている方がおられるのも事実です。めまい止めのお薬が手元にないと不安でしかたないといったようなことも起きてきます。
そこでこういった場合では、まずはめまい日記などを記載し、めまいがあろうとなかろうと日常生活をうまく続けられているという実績を目に見える形で積み上げていくことが必要です。普段の生活の中でめまい症状との共存をはかり、めまいという現象をそこまで恐ろしいものではないというふうに変化させていく、そして日常の捉え方を前向きにしていくといったように、段々と視点の変更を図っていく…「めまいがあってこんなにつらい」というところから、「めまいはあっても楽しいこともあった、めまいはあってもそんなに気にならなくなってきた」という視点に立てるようになってもらうようなことが必要で、これが「認知行動療法」というものですが、こういった点を専門家、つまりは精神科や心療内科の先生に薬物療法も含めてお願いするのが適切ではと考えています。
以上のことをまとめますと、よく動き、可能な範囲でよいので傾きの感覚を刺激するような運動…ラジオ体操して、他科の先生にアドバイスを仰ぎながらうまくめまいとつきあっていきませんかということです。