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慢性副鼻腔炎の手術

慢性副鼻腔炎の手術をお考えの方に

薬ではコントロールの追いつかない辛い鼻の症状に悩んでおられるなら、早い目の手術をお勧めいたします!

薬の効果が悪いのではなく、ご自身の鼻のそもそもの形が、もともと薬の効果を邪魔するような構造になっているため治りにくいのかもしれません。

ずっとずるずる鼻すすりしている方やしょっちゅう鼻をかんでいる方、鼻がつまったままでずっと口呼吸の方など、程度のひどい方ほど手術の効果を実感していただけると思いますし、大げさに言えば人生が変わります。

鼻の構造

大半の方は、鼻の中は大きなちくわやストローのように、大きな筒が二本ならんでいるようなイメージと思うものですが、実は奥の方では複雑な構造が存在しています。

内部には湿度や温度調節のための粘膜のひだが備わっています。(このひだは甲介構造と言うもので、中鼻甲介や下鼻甲介などと呼ばれています。)その表面からは鼻水が分泌されています。一番鼻水の生産に関わっているのが「下鼻甲介」という、一番下のひだです。

また鼻の周囲には副鼻腔と呼ばれる頭蓋骨のほら穴があり、目の下・歯茎の上にあるのが上顎洞:じょうがくどう、目の間にあるのが篩骨洞:しこつどう、目の上にあるのが前頭洞:ぜんとうどう、目の奥の内側にあるのが蝶形洞:ちょうけいどうと呼ばれています(ちなみに、頭蓋骨の軽量化・強化や一酸化窒素の産生にかかわっていると考えられていますが、まだそのはっきりした役割はよくわかっていません。脳みその冷却装置ではないかという仮説もあります)。

またこの鼻のひだのすきまに副鼻腔との空気のやりとりを行う空気の通り道があります。

鼻の穴から取り入れられた空気はこれらの洞穴やひだを通過して、温度や湿度の調節や、ホコリの浄化を受けたのちに、気管から肺へと送り込まれていきます。

慢性副鼻腔炎とは

かぜやアレルギー性鼻炎などをきっかけに鼻腔の粘膜が強く腫れて、副鼻腔の中と外の空気の行きかいのやり取りが閉ざされてしまった場合、副鼻腔の内部で炎症が進行します。つまり、頭蓋骨の洞穴の中と外にはもともと空気の交通があったはずなのですが、鼻の粘膜が炎症で腫れると、その空気の交通が閉ざされてしまった状態が作られます。そしてここに細菌感染が起きて改善しないまま長期間経過したものが慢性副鼻腔炎と呼ばれます。

つまり、副鼻腔が腫れた粘膜で閉鎖され、細菌にとって過ごしやすい環境となり、細菌が増えて暴れ続けるために膿汁(うみ=細菌と白血球が戦った残骸)が産生され続けます。

このため、副鼻腔のほらあなの中で産生されたうみが鼻水と混じり、もともとの穴の閉ざされた隙間から出てきます。つまり、このときに鼻の中をのぞくと、まさに膿みといったような白い色と鼻水の混ざった液体がたくさん流れている様子が確認できます。さらに、その鼻腔と副鼻腔との間の交通のための穴は狭くなっているため、溜まった膿みがなかなか出てきてくれず、副鼻腔の周辺をおさえるため重たい頭痛を感じるということになります。

また粘膜が炎症のためもともとの働きができなくなり、長期間の炎症によって腫れすぎてぶよぶよになり、見えるところ(総鼻道)にまで膨れてでてきたものが「ポリープ」や「鼻茸」と呼ばれます

症状

そういったねばねばのうみが副鼻腔というあまり周りと交通のない場所・閉鎖された部屋の内部で産生され続けるとまわりを圧迫するため、頭の重たい感覚や頭痛が引き起こされます。そしてうみが押し出され、狭くなった通気口から出てきてもその粘り気のためなかなかすっきり前にはでてきてくれません。粘膜の壁にへばりついたままで鼻をかんでも前にはでてこない上、後ろに流れてのどに流れていき(後鼻漏:こうびろう)、のどの後ろの壁にへばりついてイガイガするなどの症状を引き起こします。またまたうみが混ざったねばねばの鼻水は、嫌なにおいがしますし、逆にさらに炎症が強いと匂いを感じるエリアの粘膜が強く腫れさせ、嗅覚の低下や風味がわからないといったことも引き起こします。

治療

慢性副鼻腔炎の内服療法には抗菌薬(=抗生物質)を使用する治療が一般的です。

炎症の活動性が高いときにはペニシリン系を使用します。また、マクロライド少量長期投与法と呼ばれますが、クラリスロマイシン(商品名ではクラリスやクラリシッド)という抗菌薬を殺菌のための量(1日2錠)ではなくわざと少量で(静菌量:1日1錠)あえて長期に投与する治療法があります。原因の細菌を殺すより、おとなしくする・活動しにくくするような作用が期待して服薬していただきます。つまり、炎症を抑制し、うみを排出する働きを助け、細菌が住みつきにくくする環境に作り変えるなど、薬剤による掃除の力が発揮されることに期待して行う治療法です。また、ムコダイン(一般名:カルボシステイン)を併用することもよく行います。うみの粘り気を抑え、うみの排出を促す薬剤です。ネブライザー療法を併用することもあります。

また、鼻洗浄、鼻汁の吸引処置を受けていただくことによって、活動性に暴れている菌の量を減らす、洗い流すといったことも十分効果が期待できると考えられています。

経過

およそ一つの目安として三か月以上の長期間に渡ってこういった治療を続けていても改善が得られない場合や、アレルギー性鼻炎が強くかかわっている場合、もしくは鼻腔内のもともとの構造や形態が、強く発症や継続する炎症に関係している場合は手術療法が勧められる対象となります。

鼻中隔といって、鼻を左右に隔てている真ん中のついたての構造があります。こちらはもともと誰でもある程度はたわんでいるものですが、強く曲がってひどくアンバランスな場合、例えば前方でや右に曲がって後方では左に狭くなっているなどの強いたわみがあり、そのせいで強い鼻づまりや口呼吸を引き起こしていたり、副鼻腔との交通があるポイントが狭めたりしているような所見がある場合はやはり薬の効果を期待しにくいということがあります。

また鼻内にポリープが確認されるケースでは薬を漫然と続けるよりもその時点で手術をお勧めしています。ポリープがあるということは副鼻腔炎のままもうすでに長期間経過しているということでもあり、薬が効いてこのポリープが縮んで消えてしまうということはあまり期待できません。空気の通りが邪魔されている状態でその後も我慢することもないと思いますので手術を勧める一つの目安となります。

また従来の細菌感染タイプではない、ロキソニンなどと相性が悪く、喘息を合併することがある難治性のタイプ(好酸球性副鼻腔炎)の方も薬物療法の効果が薄いため手術が推奨されます。(後述)

具体的な手術の方法

現在では内視鏡を用いた手術が主流となっています。

内視鏡下鼻・副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery)と呼ばれ、ここ約30年のうちに内視鏡の発展に伴い一般化してきた手術方法です。

それ以前は局所麻酔で歯茎の根本から大きく外へむかって切開を加えて、頬へむかって粘膜を剥離して、金槌とノミで頬骨を割って前から副鼻腔を開放し、直接確認をしながら病気の粘膜を骨壁から根こそぎひきはがすような方法が主流でした(今も腫瘍を対象とした手術で行われることはあります)。内視鏡はないため、当然視野は狭くて取りにくく、手先の感覚だけで奥へ手術を進めていくような、いわゆる職人技を必要としたそうです。手術の後に顔面の強い腫れや術後の歯茎、頬部の強いしびれを長期間伴うことも多い手術方法でした。また手術後、副鼻腔の機能は低下します。

それに対して、今では麻酔も全身麻酔で、内視鏡の発達により鼻腔内だけで操作を行う手術が普及しています。(お顔の見えるところにも歯茎にも傷は残りません)

手術では従来の手術法のように病的粘膜を根こそぎ除去することよりも、ポリープや不必要に膨らんだ病的な粘膜をある程度切除して、粘膜の正常な機能が残るように操作します。つまり、鼻の生理的な機能をできるだけ温存し、副鼻腔内外の換気・排泄ルートを大きく開けることによって、細菌感染を起こしにくい環境へ作り変えることを大きな目的としています。

鼻内の生理的な構造をきちんと温存させるため、解剖学的な目印を参考に、骨の壁を取り除き、小さな部屋の壁を取り除いて大きなひとつの部屋へ作り変えるように操作していきます。また、鼻中隔矯正術や、アレルギー性鼻炎の合併がある場合は下鼻甲介粘膜への操作も(下記)同時に行うことがあります。

鼻中隔弯曲症に対する鼻中隔矯正術

鼻中隔=鼻の真ん中のついたての弯曲を可能な限り解除しまっすぐに作り変える手術です。

もともと鼻腔には鼻腔を左右に分けている鼻中隔という構造がありますが、もともと誰であれある程度左右への弯曲:曲がりがあります。鼻閉の原因となっていたり、空気の通りの左右差の原因となっていたりする場合や、また弯曲のために狭窄が強くあり、鼻内の内視鏡の操作が困難となっている場合、手術の対象として扱います。

鼻中隔は粘膜-軟骨-粘膜という三層構造となっていますが、鼻の穴の前方からちょうど見えないくらいの場所に上下に切開をいれ、いわゆる「三枚おろし」のように、左右の粘膜と鼻中隔軟骨をはがし、曲がりを形成している部分を真ん中から抜いて取り去ることによってまっすぐに置き換えて通気の改善を図ります。お顔に傷が入って残るような心配は必要ありません。

鼻中隔矯正術の合併症

鼻中隔穿孔と鞍鼻と呼ばれるものがあります。

強く「く」の字の形のように弯曲がある場合は、その先端に強い緊張の力がかかっており、弯曲した場所の先端は裂けてしまうことも少なくありません。そこに対応する、対側の粘膜を保存することができれば片方が裂けても問題はありませんが、もう一枚にも粘膜の損傷ができてふさがらないと穴ができてしまいます。これを鼻中隔穿孔(せんこう)と呼びます。鼻ピアスのための大きな穴のようなものを想像していただいてもよいかもしれません。息の音が強くなったり、かさぶたが付きやすくなったりすることもありますが、機能低下につながるようなことはあまりありません。

また、内部の軟骨を、前方と上方の鼻の形を形作っている硬い骨の支えに近い部位をあまりにも取りすぎてしまうと、5~10年経過してから鼻が変形してくるようなことがあると言われています。取りすぎないように、形態を確認しながらの操作に努めます。

これは「鞍鼻(あんび)」といわれたりしますが、解剖学的にもともと弱い構造がない限りは起きにくいのではないかと考えています。最近では術前の画像で評価し、そういったことが起きないように努める取り組みもなされています。もちろん、このような合併症が起きることは稀です。稀に空気の流れが変わって、鼻づまりを感じるようなことも起きて、閉鎖する手術を行うこともあるようです。

アレルギー性鼻炎に対する手術

下鼻甲介粘膜切除術

湿度・温度調節のためのひだのうち、下鼻甲介という部分が鼻水の大半を分泌しています。鼻汁の過剰な分泌で困っているアレルギー性鼻炎の方には、この部位の表面を削りとることで、鼻汁を分泌する機能を落とします。削られた場所は今までの組織と違い、瘢痕組織に置き換えられるため(ひきつれになる)鼻水を分泌する能力が落ちます。

レーザーを使用する場合もあります(理論は同様で、あえてやけどをさせてひきつれた組織に置き換えることで鼻水の分泌能力を低下させます)。効果が限定的な場合もあり得ます。

また鼻中隔矯正術に伴いもともとひろかった鼻の通り道が狭くなってしまう場合、この狭くなった側の下鼻甲介のバランスをとるために削ったりする場合があります。削りすぎると、きちんと通っているのにも関わらず鼻閉を感じたりする合併症(エンプティノーズと呼ばれます)が起きることが知られています。

下鼻甲介骨切除術

下鼻甲介の中を通っている骨を外して外へ取り出すことで、ひだのボリュームを減量することができます。今までひだが腫れて強く鼻づまりを感じていた場合、この操作で鼻づまりの改善が期待できます。

後鼻神経切断術

鼻の後ろの壁からは下鼻甲介へ鼻水を分泌するように指令をだしている神経が伸びてきていますが、こちらをめくり、確認して、焼いてつぶす操作のことを指します。

この手術は、将来、年齢が上がるに連れ、鼻が過剰に乾燥することも起き得ると考えられており、主に重症のアレルギー性鼻炎の方に行われます。

鼻・副鼻腔の手術の合併症の主なもの

特に重篤で代表的なものに目への影響と脳への影響があります

眼窩(眼球の入れ物)が破損した場合、眼球の周囲に存在している運動にかかわる筋肉に損傷が及び、複視(二重にものが見えること)が残ることがあります。

また損傷が眼球の実質に及んだ場合、視野や視力自体の障害(最悪の場合、失明)が起こり得ます。

また、周囲の動脈損傷でも、眼球周囲に血腫ができて圧迫が起きた際には、同様の視力、視野への影響が起こり得ます。

脳は分厚い頭蓋骨と複数の膜に覆われているため、眼球障害より頻度は少なくなりますが、脳を浮かべている組織液:髄液がもれてきたりすることが起こり得ます。これは髄液漏と呼ばれます。またそのさけた場所から感染が起きると髄膜炎などの重篤な感染症を来す可能性があります。

ただし、こういった重篤なケースが、当然ながら稀です。というのは、鼻の手術はこういった合併症を起こしてはならないということで、内視鏡が使用される以前から解剖学的な特徴の確認を繰り返し行う、今触っている場所はどこなのかということを何度も確認しながら執り行う手術だからです。また、近年では、さらに、術中に操作している場所を画像上に表示してくれる「ナビゲーションシステム」が導入されている施設が増えて、安全性も向上しています。

さらに、どんな手術でもつきものである、出血・感染・疼痛のリスクがあります。

出血:大半のケースで採血2~3回分(約30ml前後)に届くかといったところです。輸血を必要とするようなケースは腫瘍でもなければあまりありません。

鼻の手術では、その場所の特徴から出血を止める方法としては圧迫のみであり(縫合で止血を行うことが困難な場所です)、手術が終わった際に鼻に止血用スポンジや止血用の素材をつめて圧迫することで止血を行います。

疼痛:手術自体は麻酔のもとで行いますので、術中には痛みを感じません。術後、止血用スポンジを用いた場合、しばらく鼻閉が苦しいのと、それを取り除くときの苦痛が一番痛いようですが、苦しみ叫んで倒れるようなものではありません。近年は少しずつ取り出すタイプの止血剤へ変更が進んでおり、昔のように圧迫のために置いた軟膏ガーゼを一気に引き抜くような辛さも改善してきています。ただ、やはり完全な無痛ということではありません。

感染:一般的な手術と同様、感染予防の抗菌薬を使用します。鼻の中はそもそも無菌状態ではなく、まれに止血用スポンジに細菌が多数巣食って毒素を排出し高熱を来すことがあります。その際は早急に止血用スポンジを抜去して重症感染症に準じた対応をすることが知られています。

術後

止血用スポンジで鼻のパッキングを行う施設では、術後しばらく(2,3日)は鼻で呼吸ができません。口が乾燥する、イガイガするなどの感覚は必発となります。

ある程度抜去したあとはだんだんと鼻で呼吸ができるようになり、その後鼻内洗浄を行ってもらうような施設が多いと思います。

つめものを抜いた後に、下鼻甲介が圧迫されていた分反動で腫れたり、またかさぶたが粘膜に付着するのでしばらくは鼻づまりを感じることとなります。その後、腫れが引き、かさぶたがつかなくなり粘膜の見え方が元通りになるまでには約ひと月から二月程度必要とします。

手術を受けて頂いたような方には、当院ではこの間、かさぶたの掃除や、鼻内の洗浄、ネブライザーの処置などのための通院を週に1~2回程度通っていただいています。

ネブライザーというのは、霧状にした薬剤を直接鼻の中へ吹き付けるような方法の処置ですが、これを受けて頂いたほうが比較的鼻の環境が早く落ち着くと言われています。

ある程度落ち着いた時点で終診・卒業となります。

当然、この頃にはもともと悩んでいた鼻水や鼻づまりを訴えられるようかことはほとんどなくなっています。

好酸球性副鼻腔炎

好酸球とは白血球のなかの一種ですが、粘膜にこれが多数含まれている場合、好酸球性副鼻腔炎という診断となります。手術の際に粘膜の検体を採取し、好酸球が多く存在している場合この病気の診断となります。旧来からの細菌感染が長引いたタイプではなく、ここ30年で研究が進んできた新しいタイプの副鼻腔炎です。

特徴としては難治性で嗅覚が落ちます。抗菌薬の効果がうすく、ロキソニンなどの鎮痛剤で喘息発作が誘発されるアスピリン不耐症を伴うこともあります。気管支喘息との関係が深いとされています。

手術のあとにも病的な粘膜が再生してくることが多く、再発も稀ではありません。ステロイドや抗アレルギー剤を含めた投薬治療が必要となります。つまりこちらの場合は治す病気ではなく、慢性的な疾患、つきあっていく病気という認識が必要となります。いくつか特徴的な所見があり、当初から疑ってかかり、この病気という疑いが強い場合は、早々の手術をお勧めすることになります。というのも、この病気はまず手術を受けて頂くことが出発点となることが多いからです。

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