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のどの痛み

放置してはいけないつよいのどの痛み

のどの強い痛みを放置しないで!

どうせカゼみたいなもんだしそのうち治るだろうという感覚で、しばらくのどが痛いのを我慢したままお仕事を優先したり、だんだんひどくなってきているのに無理したまま放置したり…というようなことを続けていると、炎症がどんどん進んでしまう場合があります。水が飲めないままで我慢して脱水になったり、またのどの痛みで食事もできず、十分な睡眠をとれなかったりしてさらに悪影響を受け、そのうち自然に治るどころかどんどん負担が強くかかって悪化することがあります。痛み止めでごまかしながら出勤してうまく落ち着いてくれればよいのですが、そううまくいかないことが多々あります。

そうなると、急性扁桃炎の更にもう一段階上のひどい状態である、「扁桃周囲膿瘍」と呼ばれる名前の病気に進んでしまうことがあります。この病気は強い炎症が進んで、扁桃腺の裏にうみが溜まってしまった状態のことを言います。この段階となると、抗生物質の内服だけでは改善はなかなか期待できません。また唾を飲み込めない、口を大きく開けることができないなどの症状があらわれてきます。口を開けるための深い層にある筋肉まで炎症が及んで、働きが妨げられるためです。のどが腫れて声の響き方が変わり、くぐもった感じの声の出方になることもあります。

こういった場合、膿を排出する外科的な治療が必要になります。ごくまれに「自壊」といって、なにかの拍子に粘膜に穴があいて、そのおかげでうみが自然に排出されて勝手に改善するようなことが稀ながら起きたりもしますが、そうでもない限り、勝手に治ってくれるようなことはまずありません。

針でついて穴を開けたり、メスで扁桃腺の外側を切開したりするなどして、たまったうみを出してあげないとスムーズに治ることを期待できなくなってしまいます。またそうなると排膿処置だけではなく、入院してしっかり抗生物質の点滴を受けていただく治療も考えなければならなくなります。そうならないまでも、(たいていどの科の病気であっても)熱や痛みのせいで食事ができない、身の回りのことがしんどすぎてできないといった状態では入院が適切ではないかと考えています。

またそこまで進むようなことはあまりありませんが、膿がたまるとその周りは血液の流れが渋滞を起こしますので、周囲の組織がむくんで腫れてしまいます。そうなると、外に腫れる分にはいいのですが、内側へ腫れてしまうと息の通り道が狭くなってしまうことが懸念されます。つまりは窒息の危険性がでてきます。相当苦しくてしんどいので、そうなってしまうまで放置するような方は当然あまりいらっしゃいませんが、気を付けることに越したことはありません。わかりやすい判断基準としては、痛みでつばが飲み込めなくなっている時点で病気としてしっかり仕上がっており、放置は得策ではありません。確実に早期の受診が必要です。

急性喉頭蓋炎

喉頭とは、のどぼとけ周辺をイメージしていただいたらよいと思います。口を開いても見えるエリアが(中)咽頭と呼ばれるところですが、そして口をぱっと開いても見えないその下のエリアと、のどぼとけ周辺が喉頭と呼ばれるエリアとなっています。そこに喉頭蓋と呼ばれる場所があります。舌の付け根くらいの高さで、誤嚥(飲みこみの間違い)を防ぐ役割をしています。ごっくんと食事を飲み込むとき、気管の中へ食べ物が入っていかないように交通整理してくれるフタのような構造です。物を飲み込むとき、息の通り道へ食べ物が間違ってころりんと落ちていかないように、後ろの食道へ行ってくれるように、と交通整理をしてくれています。そしてまさにこちらの喉頭蓋が感染によって炎症を起こして強く腫れるのが急性喉頭蓋炎という病気です。

細菌感染によっておこることが多いのですが、中にはじわじわとではなく半日程度のうちに急速に進むケースがあり、またそのため採血検査には大した数字の異常がでないことがあります。(異常が起こっていても、炎症の反応の指標であるCRPという項目はもともと少し遅い目に採血結果へ反映されるため、ほぼ正常値か、高くてもわずかであることが多いです)

やたら痛がる、つばが飲み込めない、それなのに見える範囲ののどには大した異常が認められないという特徴があります。そのためにあまり経験のない先生に最初にかかったりすると、「まあ大丈夫でしょう」と言われてしまってあとあと耳鼻科にかかって、カメラでのぞかれはじめて息の通り道が大変なことになっていることがわかる、というようなことも起こり得る、怖い疾患です。

また、純粋に喉頭蓋だけに限って腫れる急性喉頭蓋炎のようなケースだけではなく、扁桃周囲膿瘍であったり深頸部膿瘍であったりといった、もっと深い部分の感染・炎症がベースにあって、それにより、気道周囲の血流が悪くなって、喉頭蓋を含むエリアが浮腫を来すことがあります。

炎症や膿瘍(=うみのたまり)の周辺は血流が悪くなって、血液の交通渋滞のようなことが起こると先ほど説明しましたが、喉頭近辺の深い場所でそういった炎症が起きると、血流が悪い部分の周辺に水分が逃げて腫れるという現象がおきます。喉頭蓋自体に炎症がなくとも、周辺の組織が炎症のメインの場所の場合、続発性のような形で喉頭周辺が腫れて気道が狭くなるという影響が出るような気道閉塞のケースもあり得ます。こういった場合はじわじわと進むようなことが多い印象です。

これは明らかにヤバい!という体のサインが出ないケース

「なんとなくしんどくて声が出にくい」という訴えで来院されたところ、痛みをほとんど感じておられなかったようで、先に書いたようにのどが内向けにパンパンに腫れており気道がほとんど見えないようになってしまっていたケースがありました。あとで判明したことですが、実は糖尿病の治療中で、かなりコントロールが悪く、そのため神経障害をきたしており、痛みを感じる感覚がにぶくなっておられたようです。ご本人としては「何かしんどいし飲み込みにくいし声がくぐもるなあ」といった程度の感じ方でもあり、そして付き添いの家族の方も全く重篤なものと思われてはおられませんでした。しかし、糖尿病とは本当は「血管破壊病」とでも言うような、体の細胞が潰れていく病気です。神経の障害で痛覚が麻痺するようなこともあります。

すぐさま救急外来に移動して、たくさんの先生方のお手伝いをいただきながら局所麻酔で気管切開を行い、事なきを得ることができましたが、本当にヒヤヒヤした経験でした。

気管切開について

ここで気管切開という手術について簡単にご説明します。

喉頭蓋というところは大体のどぼとけの高さにあるため、こちらの周囲で内向きに粘膜が腫れた場合、息の通り道が狭くなります。さらに強く腫れると最悪窒息になる…と先ほど説明いたしました。新鮮な空気が入ってこない、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなる状態で、そうなると当然死んでしまうので、そうならないためには普通であれば気管内挿管と言って細長いチューブを気管へ滑り込ませて、人工呼吸器につなぐことが必要となります。

しかし、のどの内部が腫れている場合、その手技は極度に危険なものとなります。視野が悪いうえに、呼吸のためのその細長いチューブの先端が喉の粘膜にふれると刺激となって、余計強く腫れてしまい窒息を悪化させかねません。

そのため、こういった場合は、腫れているところよりももう少し下の、肺に近い部分で外から穴をあけることによって、空気の通り道を確保する必要性があります。

このように、急性喉頭蓋炎では、気管内挿管による気道確保が大変困難であり、緊急気管切開を念頭に置いておくことが重要となります。こういった背景から、ある程度強い急性喉頭蓋炎であったり、喉頭周囲の浮腫状の腫脹を伴う扁桃周囲炎の場合であったりと、息の通り道が狭く、最悪の場合に窒息が危惧される場合は、原則入院が必要となります。できれば気管切開を受けなくて済むように、炎症を抑える治療を受けていただく必要性があるからです。

なお、余談ではありますが、腫れがある程度ましになるまで入院中はしばらく絶飲食が必要となります。飲めない・食べられない(のに食費がかかる)からという理由に加えて、食べ物がのどを通る刺激でそれ以上腫れるようにしてはいけないということ、また、緊急の気管切開の時に備え、ただでさえ狭いのどの奥に、胃の内容物が逆流・嘔吐したりしてのどを詰まらせたりすることのないように、つまりのどを触る手術があるかもしれず、その際の危険性を下げるために、胃の中を空っぽにしていけないということを頭に置いておかなければなりません。

 

本当に恐ろしいケースとして、窒息寸前で、つばが飲み込めないのでよだれをだらだらたらしているような患者さんの経験談を先輩に聞いたことがあります。もう息苦しさのせいで仰向けに寝転べなくなってしまっている上にパニックなので、看護師さんたち数名で押さえつけ椅子に座らせてもらい、何とか座ったままの姿勢で気管切開をやり切ったということですが…幸い私はそのようなことにはあったことはありませんが、本当にラッキーなケースであったと思います。

というわけで、そんなことになる以前に、どうぞ確認をさせていただければと思います。

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